第1話|桜花抄(おうかしょう)
小学校3年生の春、親の転勤で東京に引っ越してきた貴樹(タカキ)。
その翌年、小学校4年生の春、明里(アカリ)も同じクラスへ転校してきます。
ふたりは自然と惹かれ合い、静かに心を通わせていきました。
本作『秒速5センチメートル』は、新海誠監督によって2007年に公開されたアニメーション作品です。
日常の何気ない風景や空間が、丁寧に、美しく描かれているのが特徴です。
この物語の舞台を実際に歩いてみると、
これまで見過ごしていたような風景の美しさに、ふと気づくことができるかもしれません。
参宮橋公園|桜の舞う帰り道
放課後、ふたりで並んで歩く帰り道。
道ばたの桜の木から、花びらがひらひらと舞い降ります。
アニメの印象的な冒頭シーンは、参宮橋公園の周辺がモデルです。
春の穏やかな夕暮れの中、ふたりの距離は少しずつ縮まっていきます。



小田急線の踏切|ふたりの距離
小田急線の踏切。
遮断機が下りる直前、明里はひと足早く線路を渡り、貴樹は手前で立ち止まります。
明里は傘を差したまま、くるりと一回転。
その軽やかな動きと、わずかに離れたふたりの姿が——
物理的な距離と、心の距離をそっと映し出していくようでした。

代々木八幡宮|ふたりが過ごした大切な時間
学校の帰りにふたりが立ち寄ったのは、代々木八幡宮。
神社の参道では、ふたりで猫に会いにいきます。


神社の鳥居の横を通り過ぎ、道中、ふたりは共通の趣味である図書館の本について語り合い、会話は自然と弾んでいきます。



公衆電話|栃木への引っ越しと、ふたりの別れ
小学校6年の卒業式を最後に、明里は栃木県へ転校することが決まります。
そのことを貴樹へ伝えたのは、参宮橋駅近く——首都高速4号線の高架下にある公衆電話でした。
夜の公衆電話。明里の声は震え、こらえきれない涙が足元へと落ちていきます。

岩舟駅|雪の中、ふたりが再会を果たす場所
中学1年の終わり、貴樹に鹿児島への転校が決まります。
遠く離れてしまう前に、ふたりはある約束を交わしました。
1995年3月4日(金)、午後7時。
栃木県・岩舟駅の待合室で会う――
作中で貴樹が購入した時刻表の表紙には「1995年」の文字があり、
この物語が1995年を舞台としていることが分かります。
※実際の1995年3月4日は土曜日ですが、作中では金曜日として描かれています。
当時はまだ携帯電話が普及しておらず、連絡手段は限られていました。
貴樹は午後3時54分に豪徳寺駅を出発し、午後6時45分に到着する予定でした。
しかしその日は、関東地方は雪。
電車は次々と遅延し、貴樹の胸には焦りと不安が広がっていきます。
貴樹が岩舟駅の待合室にたどり着いたのは、午後11時16分。
約束の時間から4時間以上が過ぎていました。
それでも、明里は変わらず待っていてくれました。
静まり返った待合室。
ふたりは再びめぐり逢い、再会の時間を静かに分かち合うのでした。
第3話|秒速5センチメートル
時は流れ、貴樹は社会人となります。
仕事から帰宅途中の深夜――付き合っていた女性から、電話の着信が鳴り響きます。
12月24日(月)、雪の降る夜、0時49分。
鳴り続けるコールに、貴樹はただ目を向け、やがて切れるのを待つだけでした。
新宿の柱の広告には「Christmas2007年」の文字。物語の舞台が2007年の冬であることが分かります。
第1話が1995年の中学1年生だったことから、12年後、25歳前後と推定されます。
2008年2月2日、貴樹は3年間付き合った女性から別れを告げられます。
小田急線の踏切|桜舞う中の、すれ違い
春。舞い散る桜の中、貴樹はかつて明里と歩いた道を、ひとり静かに歩いていきます。
あの頃と変わらない街並み。けれど、隣にあの人の姿はありません。
そして――
小田急線の踏切で、すれ違うひとりの女性にふと気づきます。それは、明里。
彼女もまた、貴樹に気づいたように足を止め、振り返ろうとします。
その瞬間、電車がふたりの間を通りすぎ、視線を遮ります。
走り去る電車。
そして、静けさが戻ったとき――
踏切の向こうに、明里の姿はもうありませんでした。
そこには、
ただ桜の花びらが静かに舞っているだけでした。
主題歌|山崎まさよし「One more time, One more chance」
※本文中のアニメ場面・セリフはすべて© Makoto Shinkai / CoMix Wave Filmsより引用しています。